KISTECが伴走する 生活支援ロボットデザイン支援事業
これから先、その先を見据えて
そのためには、ロボット開発の早い段階から適切にデザイン活用を始めることで、結果的にユーザーに親しみを持って安心して使ってもらえる製品になります。また、デザインの大切さはわかっていても、どのようにデザイナーと出会い、仕事をしていけばいいのか? また、世のなかの多くの情報を整理し、知的財産権等の問題に適切に対応していくにはどのようにすればいいのか? という問題もあります。
これらの声に応えるのが「イノベーション創出支援機関」としての地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)です。KISTECは、技術支援にとどまらず、開発企業やデザイナー、関連企業の橋渡しを行い、全体的な道筋をたて、補助金を始めとする有用な情報を提供します。これから先を見据え、「新たな顧客価値の創造」にむけた伴走支援を行っています。
KISTECでは、平成30年度経済産業省 関東経済産業局「生活支援ロボットの知的財産・デザイン活用による商品化促進支援事業」(中小企業知的財産活動支援事業費補助金(地域中小企業知的財産支援力強化事業))を活用し、新商品開発支援を行いました。この冊子では、KISTECの生活支援ロボットデザイン支援事業を紹介します。
より緻密で安定的な生活支援ロボットマーケットの構築に向けて
生活支援ロボットの市場が広がっています。
高齢や障害のある方がより快適で安心して暮らせるようにサポートし、地震や台風等の自然災害の時には人間の手足となって復旧活動を行う等、生活のなかで活躍する生活支援ロボットの市場が拡大しています。
産業ロボットと異なり、毎日の暮らしを支えるためのロボットであることから、機能面で優れているだけでなく、使用するユーザーの方の快適性や安全・安定性に配慮する必要があります。対象に寄り添って開発されることが多いので、中小企業の実力を発揮できる可能性は高いのですが、商品開発やマーケット構築などの点で、資源が限られている中小企業が取組むのはむずかしい面もあります。
開発・事業化の鍵はデザイン
中小企業の生活支援ロボット開発の鍵となるのはデザインです。デザインの重要性を知りつつも、技術開発による競争強化に集中してしまうのが多くの中小企業という現実がありますが、柔軟なデザインの発想と「共に創っていく」ことで、新たな展開が生まれます。
さらに、変化の激しい市場ニーズに対応した開発を行うには、技術開発の段階から並行してデザイン開発を進めることが求められます。つまり商品開発においては、企画立案の初期段階からデザイナーと一緒に進めていくことで、商品の競争力を向上させ事業規模を拡大していくことができるのです。
生活支援ロボットを開発・事業化していくには、こうした環境づくりが重要となります。
「さがみロボット産業特区」との関わり
平成25年、神奈川県に「さがみロボット産業特区」(*1)がスタートしました。地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)では、「重点プロジェクト」(*2)、「公募型『ロボット実証実験支援事業』」(*3)、「神奈川版オープンイノベーション」(*4)に取組み、生活支援ロボットの研究開発を支援しています。今回紹介する事例の多くは、この支援事業のなかで誕生しました。
*1 さがみロボット産業特区
対象地域:神奈川県相模原市、平塚市、藤沢市、茅ヶ崎市、厚木市、大和市、伊勢原市、海老名市、座間市、綾瀬市、寒川町、愛川町「県内の研究開発人口の約5割が集中」「実証実験に適した公的機関や施設がある」という「全国トップレベルのロボット関連産業が集積」している地域の特性を活かして、生活支援ロボットの実用化・普及をはかる。
http://sagamirobot.pref.kanagawa.jp/
*2 重点プロジェクト
開発案件のうち、「早期に県民の目に触れる形で実証実験可能なもの」「県民生活にインパクトを与えられるもの」「知名度が高く、対外的に発信力に優れたもの」について、実証実験支援、アドバイザー支援、導入支援などを行う。
*3 公募型「ロボット実証実験支援事業」
全国から募集し、採択した「生活支援ロボット」の実証実験企画について、実施に必要な場所やモニターの調整支援、安全対策支援、倫理審査支援、経費支援などを行う。
*4 神奈川版オープンイノベーション
最短期間で商品化するために、専門家のコーディネートなどにより、企業や大学などの各機関が持つ資源を取合せて、研究開発を促進する。
経済産業省のロボットの定義
さがみロボット産業特区
KISTECの5つの事業
研究
開発
技術
支援
事業化
支援
人材
育成
連携
交流
生活支援ロボットデザイン支援事業の支援スキーム
全体スケジュール(平成30年度)
生活支援ロボットデザイン支援事業例
製品開発から事業化・商品化まで行うデザイン支援(商品化促進モデル事業)から、個別のデザイン課題解決支援(個別課題解決支援事業)まで、これまでKISTECが関わった開発企業は24社、デザイン事業者は29社になります。ここでは、そのなかから10例を紹介します。
*支援実績は平成27年度から平成30年度までの延べ件数
展示会支援やセミナー開催で、事業化促進にも力を入れています。
<展覧会出展支援>
第45回国際福祉機器展H.C.R.2018
- 期 間 / 平成30年10月10日〜12日
- 会 場 / 東京国際展示場(東京ビッグサイト)東展示ホール
- 展示小間 / 2小間(幅6m×奥行3m)
Japan Robot Week 2018
- 期 間 / 平成30年10月17日〜19日
- 会 場 / 東京国際会議場(東京ビッグサイト)東5ホール かながわロボットイノベーション2018
- 展示小間 / 4小間(幅4m×奥行4m)
テクニカルショウヨコハマ2019
- 期 間 / 平成31年2月6日〜8日
- 会 場 / パシフィコ横浜展示ホールA・B・C
- 展示小間 / 3小間(幅9m×奥行3m)
<デザイン×知財スキルアップ、活動普及セミナー>
知的財産権制度との賢い付き合いかた
デザイン商品の知財を守り、リスクに備える
- 期 間 / 平成30年3月8日14:00〜17:20
- 会 場 / KISTEC海老名本部
- 参加者数 / 43名
- 司 会 / 飯田勝己(KISTEC)
- 生活支援ロボットデザイン支援事業 募集説明 / 守谷貴絵(KISTEC)
- 講 師 /
- 藤澤崇彦(特許庁 審査第一部 意匠課)
- 日髙一樹(日高国際特許事務所)
- *平成30年度の募集説明セミナー
ISTEC発!!ビジネスを広げる!!
ロボットの付加価値のつくり方
ロボット×デザイン×知財
- 期 間 / 平成30年10月17日 14:30〜16:30
- 会 場 / Japan Robot Week2018内 出展者セミナー会場
- 参加者数 / 63名
- 司 会 / 伊東圭昌(KISTEC)
- KISTECにおけるロボット開発支援の取組み / 櫻井正己(KISTEC)
- 講 師 /
- 髙橋克実((株)ホロンクリエイト)
- 小山久枝(ベクトル(株))
- 阿部 清((株)テムザック))
- 前川和夫((独)工業所有権情報・研修館)
事業化促進フォーラム
共創によるものづくり
- 期 間 / 平成30年10月24日 14:30〜16:30
- 会 場 / KISTEC海老名本部 KISTEC Innovation Hub2018内
- 参加者数 / 51名
- 司 会 / 杉本洋夢(KISTEC)
- 事業化促進グループの取組み / 守谷貴絵(KISTEC)
- 講 師 /
- 大崎 優((株)コンセント)
- 平野 隆(富士通(株))
- 中国市場調査の報告 / 伊東圭昌(KISTEC)
KISTEC発!!ビジネスを広げる!!
ロボットの付加価値のつくり方
ロボット×デザイン×知財 成果発表会
- 期 間 / 平成31年2月7日 13:00〜17:00
- 会 場 / テクニカルショウヨコハマ2019内 パシフィコ横浜展示E205会議室
- 司 会 / 伊東圭昌(KISTEC)
- KISTECにおけるロボット開発支援の取組み / 守谷貴絵(KISTEC)
- 成果発表 /
- 齋藤直一 × 山下公明
- 吉田基一・一戸広隆 × 松本 康・竹内信博
- 渡邊将文 × 髙橋克実
平成30年度 調査の取り組み
生活支援ロボット開発企業の調査
高度情報化時代という環境にあっては、自分たちにとって有効な情報をきちんと選び取れているか、という不安があります。柔軟な発想をもって商品開発を行う上でも情報収集は重要な問題です。開発支援を行うKISTECには、より先端的、先鋭的な取組みに対する調査活動を行い、さらにはそれを伝えていく役割も持っています。
平成30年度は、生活支援ロボットの開発メーカーとして十分な実績のある(株)テムザックへの訪問調査を行いました。同社では、
- ○ロボット開発におけるデザイナーの役割
- ○開発案件における知的財産権(特許、意匠、商標)に関する考え方
- ○国内および海外展開に向けた心構え
等について取材調査しました。
得られた知見については、神奈川県内の中小企業支援に活かしていきたいと考えています。
下の写真は、(株)テムザックが開発した『ロデム』です。歩行が困難な方が使えるロボットで、シートの高さを調節できるので、後から移動して乗ることができ、ベッドや椅子、トイレへの移乗を簡単かつ安全に行うことができます。
「時にはロボット、時にはビーグル(乗りもの)、時に車椅子」とうたう『ロデム』。
この商品は、神奈川県の平成30年度公募型ロボット実証実験支援事業に採択され、平成30年11月、「かながわロボタウン」キックオフイベントで「『ロデム』体験乗車」を行いました。さらに病院や高齢者施設内で歩行が困難な方に試乗していただき、対象者の自立への貢献度と介護者の負担軽減を検証しました。
「かながわロボタウン」キックオフイベントで行われた『ロデム』の体験乗車。
中国工業博覧会と現地イノベーション創出企業の調査
事業化支援は、製品開発に始まって市場や販路の開拓まで行います。ことに生活支援ロボットは、国内の販売にとどまらず海外展開も考えられることから、KISTECでは、海外市場の現況と課題をあきらかにするための現地調査を行いました。
調査先は、さまざまな分野で進展著しい中国。平成30年9月、上海で開催された中国最大級の産業展示会『中国工業博覧会』に出展するとともに、展示企業への調査を行いました。それに合わせて現地のイノベーション創出に積極的に取組む企業への調査等を行いました。そこでの「気づき」は以下の通りです。
○デザイン開発、ビジネス観の違い
『中国工業博覧会』での調査活動を通じて感じたのは、ビジネス観の違いです。日本の場合、こうした展示会では開発した製品の技術のすばらしさを披露することに重点が置かれる傾向があります。しかし、中国の場合、あくまでも展示会は商談会、ビジネスの最前線の場という考えが顕著にあらわれています。展示会で興味のある製品等があったら、まず「パートナー関係の構築」あるいは「投資」で話が始まります。話の進め方も早く、契約の話もすぐ出てきます。スピード感覚の違いを実感しました。
○日本の知的財産権対策だけでは通用しない
日本での知的財産権対策が済んでいたとしても、中国での知的財産権対策が施されていなければ、真似をされても仕方がありません。「展示会で独自の技術を得意げに発表する日本企業は、あまりにも無防備だ」という声もありました。
海外展開を考える場合、どこの国でどのように商売をするのか、その対策はどう行うのか、あらかじめ考えておくことが重要と改めて実感しました。
○海外企業とも連携してチームで開発
中国の実情をヒアリング調査すると、生活支援ロボットや介護福祉機器等の開発を進めていくためには、技術者だけでは不十分だと感じました。開発の初期段階から、デザイナー、法律関係者、流通関係者、医療介護関係者、投資家、マーケット関係者等でチームを組み、連携して開発を進めることの大切さを実感しました。
展示会場で配布したチラシ。
KISTECの活動内容を紹介したパネル。
天井高もありスケールの大きな会場。
あちこちで商談が始まる熱気のある雰囲気。
入口では厳重なセキュリティチェック。
製品化に向けたマッチングから事業の構築まで、さまざまな対応で長く伴走します。
生活支援ロボットデザイン支援の流れ
KISTECの「生活支援ロボットデザイン支援事業」について、具体的にプロジェクトの流れに沿って説明します。このプロジェクトは、支援の対象となる開発事業者とデザイン事業者とKISTECの三者で実施するものです。平成31年度のすすめ方は、下の図の通りです。
3月上旬から4月上旬は、デザイン支援を希望する開発企業を募ります。公募には条件があります。
- 生活支援ロボットの商品化達成に向けて、意欲的にデザイン事業者と「共創」できること
- 「さがみロボット産業特区」の事業(*1)に参加している神奈川県内に事業所を有する中小企業、または神奈川県内に事業所を有する中小企業者を構成員に含むグループであること
- デザイン開発支援を受けて平成31年度中に生活支援ロボットの商品化、または商品化に向けた試 作品を完成できること
資格要件を満たす開発企業が支援候補と認定され、ロボットデザインテーマを出すのが5月上旬。デザイン事業者向けの説明会も行われます。
一方、デザイン事業者は、商品開発にかかるプロセス(商品戦略、商品企画、デザイニング、試作、製造監修等)を統括できる法人(中小企業に限る)または個人で、委託業務を効果的かつ効率的に実施できることが条件で、5月上旬から6月上旬くらいに募ります。
その上で、KISTECによって、開発企業とデザイン事業者のマッチングを行います。6月上旬から下旬にかけては、デザイン事業者からデザインプロポーザルを募集し、外部有識者による審査会を経て、7月中旬にデザイン事業者が選定されます。
7月下旬には、開発企業とデザイン事業者とKISTECの三者によって、支援内容および委託業務内容を協議して決定します。その後契約が行われ、8月から3月中旬までデザイン開発支援委託期間となります。KISTECは、デザイン・知財戦略を中心に、総合的デザイン支援、造形支援、知財戦略支援、販路開拓・展示会出展支援等を行います。くわしくは、KISTECのホームページの「生活支援ロボットデザイン支援事業」をご覧ください。
*1「さがみロボット産業特区」には、「神奈川版オープンイノベーション」「重点プロジェクト」「公募型『ロボット実証実験支援事業』」「県が指定する研究開発テーマを対象とするもの(ただし、ロボット研究会に参加するもの)」。くわしくは県産業振興課技術開発グループにお問い合わせください。